令和2年度(2020年)日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ問題3C【引用】の解説です。
引用節とは、発言や考えの内容を述べる節。直接引用と間接引用があります。
直接引用とは、話した言葉などをそのまま引用するもの。「」を使うもの。
例)彼は「私は猫が好きだ」と言いました。
間接引用とは、そのままではなく、自分の言葉でまとめたもの。「」を使わないもの。
例)彼は猫が好きだと言いました。
(11) 引用節と対人的モダリティ
文は命題とモダリティにわけることができます。
命題とは、文の客観的な部分。
例)「彼は猫が好きらしい」という文の「彼は猫が好き」
モダリティとは、文の主観的な部分。命題に対する話し手の認識や判断を表す。
例)「彼は猫が好きらしい」という文の「らしい」
モダリティが対事的モダリティと対人的モダリティにわけられることは平成27年度日本語教育能力検定試験Ⅰ問題3A【文法カテゴリー】で問われていますね。
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対事的モダリティとは、事柄に対する認識や判断。
対人的モダリティとは、聞き手(相手)に対する表現。
それでは各選択肢の引用節に対人的モダリティが含まれているか確認しましょう。
選択肢1
引用節:もっと真面目にやれ
「やれ」は聞き手に対していっているので対人的モダリティです。
選択肢2
引用節:田中君の病気はすぐによくなる
命題のみで対人的モダリティは見当たりません。
選択肢3
引用節:彼女ならもう来るんじゃないか
「じゃないか」は命題「彼女はもう来る」に対する対事的モダリティです。
選択肢4
引用節:生き字引
命題のみで対人的モダリティは見当たりません。
よって、答えは1
(12) 引用に当てはまらないものの例
引用に使われるのは「と」や「ように」ですが、選択肢は全部「と」ですね。これが「引用」に当てはまるか見ていきましょう。
引用に当てはまるかどうかは「」をつけられれるかどうか(直接引用にできるか)で判断するといいです。
実際に私は試験で、各選択肢の文に「」を付けていきました。
選択肢1
今日は「息子に店番をして」とお願いしている。
お願いの内容を引用してます。
選択肢2
私は「その話を怪しい」と疑っている。
疑っている内容を引用しています。
選択肢3
彼女は「もういかない」とこぼしている。
こぼしている内容を引用しています。
選択肢4
子ども料金は大人料金の半額となっている。
これは、子ども料金が何に決まっているか説明しています。
「となっている」は決まっていることを表す文型です。
引用ではありません。
よって、答えは4
(13) 名詞修飾節と被修飾名詞の間に用いられる助詞とは
名詞型引用表現で、名詞修飾節と被修飾名詞の間に用いられる助詞
と書くとわかりにくいのでシンプルに考えます。
名詞型引用表現とは、名詞を説明する表現です。
例)先生が結婚するという噂を聞きましたか?
「噂」という名詞を説明しているのが「先生が結婚する」ですね。
名詞修飾節:先生が結婚する
被修飾名詞:噂
です。
この間に用いられている助詞が「という」ですね。
各選択肢の助詞を使って例文を作ってみましょう。
選択肢1「との」
彼との関係 〇
選択肢2「って」
鬼滅の刃ってマンガ、知ってる? 〇
選択肢3「として」
留学生として来ました ×名詞じゃない
留学生としての来日→後ろに名詞をつけるには「の」が必要。
選択肢4「という」
鬼滅の刃というマンガを知っていますか?〇
「という」は会話では選択肢2のように「って」になりがちですね。
(14) 主節の動詞によって構造が異なる「と」とは
試験のテクニック
時間がない時は小手先のテクニックを駆使しましょう。
この問題は、選択肢2だけ「も使える」という可能性を広く認める言葉を使っています。
可能性の広い言葉は正解の答えが高いです。
よって、答えは2です。
「と」を用いた引用節の主節とは、「と」の後の文のことです。
例)彼は猫が好きだと言いました。→「言いました」が主節
これも各選択肢のルールを見ながら例文を考えましょう。
選択肢1:「伝える」など伝達動詞は引用節内にガ格を取らない。
「明日のパーティには彼が来る」と伝えてください。→ガ格を取りました。
選択肢2:「頼む」などの依頼動詞は「~しろ」以外も使える。
「留守番お願い」と頼まれました。「留守番してください」と頼まれました。→「~しろ」以外もいろいろ使えますね。
というか、頼むのに「~しろ」つか使えないとか何様なんだと…。
選択肢3:「言う」などの発話動詞は終助詞使えない。
終助詞とは、文の最後について、話し手の気持ちや判断を表す。「よ」「ね」など。
「留守番お願いね」と言いました。→終助詞使えます。
選択肢4:「思う」などの思考動詞はデス・マス体が使える。
これは初級を教えている日本語教師には楽勝でしたね。
日本語学校で最もよく使われている初級の教科書『みんなの日本語』の21課では、「~と思う」を習うのですが、「~と思う」の「~」では、デス・マス体は使えませんよ、普通形(ダ・デアル体)を使いますよ、と伝えます。
例)明日は雨が降りますと思います×→明日は雨が降ると思います〇
よって、答えは2
(15) 「引用の『ように』」の多様な用法
【公式の解答は4でした】
「ように」はいろいろな用法があって(引用以外にも用法があって)N3レベルの学習者を悩まし、それをサポートする日本語教師を寝不足にする嫌な文型の一つであります。
そして私も試験の時、悩みました。今でも悩んでいます。
このような問題で悩み過ぎると時間がなくなるので、すぐにわからなければ適当に選んでスキップするのが試験ストラテジーとして有効です。
この問題も選択肢を見ながら例文を考えていきましょう。
選択肢1
昨日言ったように明日は休みです。→過去形も使えます。
なお、命令や依頼を表す「ように」の引用節内では過去形が使えません。
命令:先生は勉強するように言いました(勉強したように×)
依頼:パーティに来るようにお願いしました(来たように×)
選択肢2
新人日本語教師必携の本『初球を教える人のための日本語文法ハンドブック』p94には、依頼を表す「ように」が書かれていますが、ここでは「ように」の前は「V辞」(動詞の辞書形)と書かれています。つまり、丁寧体は使えないと。ですが下の例文はどうでしょうか。
・ご遠慮くださいますようお願い申し上げます。
・ご容赦くださいますようお願い申し上げます。
普通は「に」を省略しますが、丁寧にお願いするときに、丁寧体で言いますよね。なので選択肢2は間違いではないか? どうでしょうか。
選択肢3
今日はもう吸わないようにと言われました。
「言われました」という主節を省略して、
今日はもう吸わないように。
これだけで文が成立しますね。
なので主節は省略できます。
選択肢4
これも少納言に頼りましょう。
「ように思」「ように考」で検索すると、たくさん使用例がでてきます。
一例をあげます。
綾辻行人著『暗黒館の殺人 下』「心なしかこれも、先刻に比べてだいぶこちらとの距離が縮まってきているように思えた」
「に」を省略できるでしょうか。
悩んでおります。
「私はこう考えた」など
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