【過去問解説】平成30年度日本語教育能力検定試験Ⅲ問題5【2018】トップダウン処理の聴解授業のガイドライン

H30試験Ⅲ
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毎年、だいたい問題5から7あたりに具体的な教室活動の事例が出ます。

現役日本語教師にとって有利な問題です。

まだ日本語教師でない皆さんは自分が教師になったときのことを具体的にイメージしながら解いてみてください。

授業で役立つテクニックが満載なので気になったところは付箋を貼っておけば授業準備で困ったときに助けてくれるかもしれません。

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問1の解き方【トップダウン処理の聴解の前作業】

出ました。トップダウン処理

トップダウン処理は毎年のように出るため別の記事を作りました。よかったらどうぞ。

トップダウン処理のポイントは、すでに持っている知識・経験を使って新しいデータを処理すること。

そのために必要なのがスキーマの活性化です。

スキーマの活性化も毎年のように出るのでしっかり押さえておきましょう。

読解や聴解の授業では、読む聴くの前に、それに関連する絵やタイトルを見せたり、同じトピックの話をしたりします。

例えば、富士山登山に関する読解(聴解)素材を読む(聴く)前に、富士山の写真を見せたり、「富士山に登ったことありますか」と質問することで、学習者の頭の中の富士山に関連する知識(スキーマ)が活性化します。

スキーマの活性化によって、実際に読む(聴く)ときに頭に入ってきやすくなるのです。

選択肢1

「聴解素材のスクリプト」はすでに持っている知識ではなく、新しいデータです。

これはボトムアップ処理です。

そもそも聞く前にスクリプトを覚えてしまったら聴解のトレーニングになりません。やるなら聞いた後でしょう。

×

選択肢2

トップダウン処理では、すでに持っている知識を使って、新しいデータを処理します。

すでに持っている知識の復習は、トップダウン処理ではありません

選択肢3

読んでキーワードを探すのは、読解のトップダウン処理です。

聞く前にスクリプトを読んだら聴解のトレーニングになりません。やるなら聞いた後でしょう。

選択肢4

「今日の聴解はこれです」

と言われて下の絵を見せられたら、どう思いますか?

「オタクに関する内容かな」「秋葉原の話かな」「面白いファッションの話かな」

などと思いませんでしたか?

これがトップダウン処理です。

自分が持っているオタクや秋葉原やアニメに関する知識を使って、新しいデータ(上の絵)を処理することで、聴解の内容を予測できました。

よって、答えは4

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問2の解き方【語の確認】

選択肢1

既存の知識を使って全体を大まかに理解するのは「トップダウン処理」です。

既存の知識だけでは足りない場合、未習のキーワードを説明して補うのはアリでしょう。

選択肢2

「細部を正確に」はボトムアップ処理です。

×

選択肢3

「すべての語を聞き取れるように」はボトムアップ処理です。

1つ1つのの意味を理解する→を理解する→段落を理解する→文章全体を理解する

ボトムアップ処理では、小さいデータを積み重ねて全体を理解します。

×

選択肢4

ボトムアップ処理です。

例えば、富士山登山に関する聴解素材とします。

導入する語は「登頂」

類義語を調べてもらいます。

「登山」「山登り」「山に登る」とかでしょうか。

類義語を調べることで、登山に関するの理解が進み、の理解につながり、文章全体を理解できるようになります。

×

よって、答えは1

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問3の解き方【聴解素材を選ぶ際の留意点】

明らかに変なのが1つあるので落としたくない問題です。

選択肢1

簡単な言葉で短い文であれば、初級でナチュラルスピードのものも取り入れていくとよいです。

例えば「私は猫が好きです」ならナチュラルスピードでも理解できるでしょう。

逆に、スピードの遅いものばかりだと日常生活の日本語のスピードに慣れることができます。

選択肢2

「最初から自然で長い文が入ったもの」は、初級レベルでは理解できず挫折してしまいます。

インプット仮説のことを思い出してください。

効果的なインプットは、自分の能力をよりちょっと上の「+1」です(日本語教育能力検定試験完全攻略ガイド第5版p320参照)。

×

選択肢3

例えば、仕事の電話を敬語で話した後に友だちとの電話でカジュアルに話すなど、中級レベルでは、場面による言葉の使い分けが入ったものを選び、より実践的な聴解活動を取り入れていくとよいです。

選択肢4

例えば、駅のホームのアナウンスや雑音が聞こえるなど、中級レベルでは、会話の重なりや雑音の入った、より自然なコミュニケーションに近いものを選ぶとよいです。

よって、答えは2

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問4の解き方【再話】

再話とは、見たり聞いたりしたことを、自分の言葉で現してすこと。

聴解の後作業で再話を行う目的は、聞き取った単語や表現を定着させるためです。

選択肢1

確かに、学習者が内容を理解していないと自分の言葉で再現できないので再話によって理解しているかを確認することはできます。

ですが本作業(2)をみてください。ここで「理解できなかったことについて質問させ、全体で確認」しています。

「内容を理解しているか確認」は本作業ですることです。

後作業ではありません。

選択肢2

推測した内容と聞き取った内容の違いの確認も本作業で行います。

そもそも再話は聞いた後に行うので「推測」はしません。

選択肢3

再話をすることで、聞き取った(インプットした)単語や表現をアウトプットできるので、表現の定着に役立ちます。

選択肢4

再話は推測するためのものではありません。

よって、答えは3

詳しくは下記記事をどうぞ。

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問5の解き方【著作権者の許諾なしに利用できる例】

非営利の教育機関(小・中学校など)と著作権については

文化庁長官官房著作権課の『学校における教育活動と著作権』

がとても分かりやすいので見ておいてください。

選択肢1

https://www.bunka.go.jp/chosakuken/hakase/pdf/gakkou_chosakuken.pdf

上のとおり「授業で使用するために」複製して渡すのはOKですが

「自宅で復習できるように」はダメです。

×

選択肢2

「授業を受ける学習者に限定」しても「SNSで共有」してはいけません。

「授業で使用するため」じゃないので。

×

選択肢3

https://www.bunka.go.jp/chosakuken/hakase/pdf/gakkou_chosakuken.pdf

「聴解ワークシート」というのは、教育機関に在籍する学習者に買ってもらうために作っていますので、たとえ、非営利の教育機関であっても許されません(上の⑥)。

選択肢4

「ニュース動画のスクリプト」は、学習者に買ってもらうために作っているわけではないので、授業で学習者に配布しても「著作権者の利益を不当に害」しません(上の⑥)。

よって、答えは4

なお、多くの日本語学校では問5のような著作権侵害行為が頻繁に行われています。

著作権についてよくわからなくなった時は、

その行為が著作権者の利益を侵害しているか?

で判断してください。

上の選択肢3では、コピーされなければ買ってくれるかもしれなかった学習者が聴解ワークシートを買ってくれなくなったので、明らかに「著作権者の利益を侵害」しています。

一方で、選択肢4の場合は、コピーされても著作権者の利益は侵害されません。著作権者が学習者に対してニュース動画を売りつける目的はなかったと思うので。

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