【過去問解説】平成28年度日本語教育能力検定試験Ⅲ問題3【2016】どのように言うか

H28試験Ⅲ
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問1の解き方

「筆を執る」というのは「文章を書く」準備行動に過ぎません。

字の通りであればまだ文章を書いていません。これから書くはずです。

ところが実際には「筆を執る」でその先の「文章を書く」意味も表します。

同じように、本当は準備行動に過ぎないのに、その先の意味も表す

意味が拡張している例を探します。

1 子どもたちにたっぷりと愛情を注いだ。

愛情を注ぐは準備行動ではありません。

2 多くの人が健康上の問題を抱えている。

問題を抱えているは準備行動ではありません。

3 聞こえなかったので音量を上げた。

音量を上げたのは準備行動ではありません。

音量を上げたとたんに聞こえるようになります。

4 地元住民からの訴えに耳を傾ける。

耳を傾けるのは熱心に聞くための準備行動です。

字の通りであればまだ聞いていません。これから聞くはずです。

ところが実際には「耳を傾ける」でその先の「熱心に聞く」も表します。

意味が拡張しています。

よって、答えは4

意味拡張について詳しくは下の記事をどうぞ

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問2の解き方

「先生が太郎を叱った」は能動文 先生に視点を置いて表現しています。

「太郎が先生に叱られた」は受身文 太郎に視点を置いて表現しています。

選択肢1

そのとおりです。

選択肢2

新情報と旧情報と言えば「は」と「が」です。

新情報は「が」、旧情報は「は」です。

例)急に猫現れた。猫何か欲しそうな目でこちらを見ている。

選択肢3

能動文は中立です。受身文は被害のニュアンスを表すことがあります。

選択肢4

前者は能動文、後者は直接受身です。

どちらも被害を表す文型ではありません。

よって、答えは1

下線部Bの文が被害を受けているように見えるのは「叱る」という動詞のせいです。

受身は関係ありません。

動詞を「褒める」に変えればわかりやすいでしょう。

「先生が太郎を褒めた」「太郎が先生に褒められた」

被害を表さないのは明らかです。

被害を表すのは間接受身です。

間接受身とは、その行為が直接主語には向かっていないのに使う受身です。間接的な影響を受けます。間接受身は被害や迷惑を表すことが多いので。被害の受身とも迷惑受身ともいいます。

直接受身とは、その行為が直接主語に向かっているときに使う受身です。

直接受身の例

・太郎が先生に褒められた。

「褒める」という行為が太郎に向っています。

・太郎が先生に叱られた。

「叱る」という行為が太郎に向っています。

間接受身の例

・私は妻に不倫された。

「不倫する」という行為は直接的には不倫相手との行為ですが、主語である「私」にも間接的な影響があります。

・Twitterでネタバレされた。

Twitterで「ネタバレをする」という行為は直接的には私に向かっていませんが、偶然それを見た私にも間接的な影響があります。

受身について詳しくは下の動画をどうぞ

よって、答えは1

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問3の解き方

面白いですね。普段何気なく使っている「詫び」の表現形式がこのように分類できるなんて。

ワクワクしながら各選択肢を具体的に考えます。

選択肢1

「昨日はすみませんでした!」

過去の出来事に対する詫びとしても使用できます。

選択肢2

二人称「あなたがお詫び申し上げます」×

三人称「彼がお詫び申し上げます」×

一人称でなければ使用できなそうです。

「申し上げる」は「言う」の謙譲語なので「発話行為の一種」と言えます。

選択肢3

「先生、ごめんなさい! 宿題忘れました」

上の者にも使用できます。

「ごめんなさい! 寝坊しちゃった」

友達(下の者ではなく、同レベルの者)にも使えます。

「ごめんなさい」は漢字で書くとわかりやすいです。

「御免なさい」

御免とは、許可すること。許すこと。

「ーなさい」は「食べなさい」「勉強しなさい」「寝なさい」のように命令を表します。

「ーなさい」は「食べろ」「勉強しろ」「寝ろ」という命令形をやわらげた言い方です。

よって「ごめんなさい」は表現の上で許すは許すことを相手に要求する表現です。

でも下の者以外にも使えます。面白いですね。

選択肢4

表出系と言われると『HUNTER×HUNTER』みたいだなあと思った私は漫画の読み過ぎでしょうか。

自分の思いをす表出系の「思います」は、本来話し手の感情を表す表現です。

でも、公的な立場からの謝罪でも使っています。ニュースでよく見ますね。

よって、答えは2

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問4の解き方

選択肢1

「実は」は程度副詞ではありません。陳述副詞です。

副詞については令和元年度日本語教育能力検定試験Ⅲ問題3の問題文に詳しい説明がありますので読んでおいてください。

あるいは下の動画をどうぞ

選択肢2

「てしまう」は望ましくない事態が生じたと自分が認識していることを聞き手に伝達します。

例)宿題を忘れてしまいました。

選択肢3

「んです」は説明を表します。

選択肢4

終助詞「よ」

聞き手の注意をうながしながら自分の発話内容を言い聞かせるという話し手の態度を表わします。

http://www.coelang.tufs.ac.jp/mt/ja/gmod/contents/explanation/096.html

よって、答えは2

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問5の解き方

具体的に例文を作りながら選択肢の記述を検討します。

選択肢1

・猫カフェに行きませんか。

・猫カフェに行きましょう。

比べてみると確かに「ませんか」の例の方が控えめで丁寧さが感じられます。

「ませんか」の「ません」は否定ですから

「ませんか」は否定を含む疑問の形式といえます。

選択肢2

A1:今日、飲みに行きませんか。

B1:今日は、行きません。

A2:今日、飲みに行きませんか。

B2:今日は、難しいです。

上の例を比べてみると「行きません」はストレートすぎて失礼な感じがします。

一方で「難しいです」のように実現可能性の問題として伝えると、聞き手への配慮が感じられます。

選択肢3

A1:引っ越しの準備が終わらない…

B1:手伝いましょうか。

A2:引っ越しの準備が終わらない…

B2:手伝ってあげましょうか。

与益表現を含む「てあげましょうか」のほうが差し出がましく感じられます。

×

選択肢4

A:100万円、貸してください

B:わかりました。じゃあ、明日、私の家に来てください

Aの「てください」は聞き手の負担になる行為

Bの「てください」は聞き手の利益になる行為

よって、答えは3

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以下は日本語教師になる前に書いた解説です。

※他の解き方、考え方を知るのに役立つので、あえて残しています。

平成27年度日本語教育能力検定試験Ⅲの問題3は【日本語の名詞修飾表現】でした。
平成28年度日本語教育能力検定試験Ⅲの問題3は【どのように言うか】です。 

問1 「筆を執る」が「文章を書く」といった意味で使用されるのと同じタイプの意味拡張の例を選ぶ問題です。
「筆を執る」は書くための準備行動にすぎないのに「文章を書く」という意味に拡張しています。

4,「耳を傾ける」は注意して聞く準備行動にすぎないのに、「 注意して聞く」という意味に拡張しています。

よって、4が正解です。

問2
1,受身を使うことで、後者は太郎に視点を置いているので、正解は1であると思料します。

2,前者と後者の差は、出来事の新情報・旧情報の差ではなく、叱った側に視点があるのか、叱られた側に視点があるのかの差だと存じます。

3,被害のニュアンスを表すのは間接受身のことだと思いますが、本問は直接受身です。
間接受身(被害受身)の例)
「猫が刺身を取った」→「(僕が)猫に刺身を取られた」

4,被害を表すのは間接受身ではないでしょうか。

問3
1,「間違った解説を書いて、すみませんでした」のように、描写系の「すみません」は、タ形でも使用でき、過去の出来事に対する詫びとして使用できると思います。

2,遂行系の「お詫び申し上げます」は、発話行為の一種であるため、意味上の主語が一人称でなければ使用できないと思います。
例)彼がお詫び申し上げます☓

3,命令形の「ごめんなさい」は表現の上では許すことを相手に要求していますが、目下の者以外にも使用できると思います。というか、使用してしまいました

4,表出系の「誠に遺憾に思います」は、本来話し手の感情を表す表現ですが、公的な立場からの謝罪として使用されすぎですね。

以上より、2が正解です。

問4
2,「てしまう」を用いると、望ましくない事態が生じたと自分が認識していることを聞き手に伝達できます。
例)同棲していた彼女が行ってしまうので僕は一人になってしまう。彼女を怒らせてしまった。同窓会に出席してしまったのだ。元カノに再会してしまって、ついはしゃぎすぎてしまって、ホテルで一晩過ごしてしまった。朝帰りと匂いでバレてしまった。誠に遺憾に思います。

よって、2が正解であると思料します。

問5 詫びと理由説明には様々な言い方と表現効果があることに関する問題です。
1,勧誘表現の「ませんか」は否定を含む疑問の形式なので、「ましょう」よりも控えめで丁寧さが感じられます。
例)「もう一度、デートしませんか」
  「もう一度、デートしましょう」

2,断り表現では、「難しいです」のように実現可能性の問題として伝えることで、聞き手への配慮を表すことが多い。
例)「浮気した人ともう一度デートするのは、難しいです」

3,逆だと思います。与益表現を含む「てあげましょうか」は、申し出表現の「ましょうか」より差し出がましく感じられます。
例)「肩を揉んであげましょうか」
  「肩を揉みましょうか」

4,依頼表現の「てください」は、聞き手の負担になる行為だけでなく、聞き手の利益になる行為にも用いられます。
例)「肩を揉ませてください」

以上より、正解は3と思料します。

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