H29(2017年度)日本語教育能力検定試験 試験Ⅰの問題2(5)の解説です。
問題の解き方
【】内がどんな誤用か検討
どうすれば文が正しくなるかを考えます。
「私は結婚したとき」
を
「私が結婚したとき」
にすればいいんだ!
各選択肢が同じ誤用か検討
選択肢を見てみると
いずれも「私は」で始まっています。
【】内と同じように、全部「私が」に変えてみよう!
- 私がその人に頼んでも、OKしてくれませんでした 〇
- 私がイケメンだったら、すぐ彼女ができるかもしれません 〇
- 私が宿題を忘れると、先生はいつも怒ります 〇
- 私が頭が痛いんですから、風邪を引いたかもしれません ×→私は頭が痛いので、風邪を引いたかもしれません。
泣けてきました…。
可愛そうすぎるだろ私…。
何はともあれ、答えは4です。
試験勉強を日本語教師の仕事につなげよう
「んですから」はとても多い誤り
選択肢4のような誤りを、学習者はよくするので気をつけてください。
なぜ、学習者は「んですから」と言ってしまうと思いますか?
それは
日本語教師のせいです。
「んです」は気持ちを表します
「から」は理由を表します
こう説明する日本語教師が多いんです。
そのため、学習者は
「んです」で痛いという気持ちを表し、「から」で理由を表現しよう
こう考えて
「んですから」
を多用します。
『みんなの日本語(以下、みんにちと言う)』も悪いです。
『みんにち』では、理由を表す表現として「ですから」をまず習います。
そのため、『みんにち』で勉強した学習者は「~ですから」を多用します。
例)今日は雨ですから、学校を休みます。
間違いではありませんが、こういう言い方をする日本人がどれほどいるでしょうか?
おっと、すみません。
ついつい『みんにち』の愚痴を言いそうになりました。
話を戻しましょう。
選択肢4を見てください。
私は選択肢4を以下のように直しました。
私は頭が痛いんですから、風邪を引いたかもしれません
→私は頭が痛いので、風邪を引いたかもしれません。
どうして「から」を「ので」に変えたと思いますか?
「から」と「ので」の違いは何だと思いますか?
ちょっと考えてみてください。
「から」と「ので」を使って、それぞれ例文を作ってみてください。
違和感があるのはどんなときでしょうか?
私の考えはCMの後です。
「から」と「ので」の違いとは?
例1 教室で
教室で、20人のグループレッスンをしています。学生が先生に言いました。
学生A:寒いから、窓を閉めてもいいですか。
学生B:寒いので、窓を閉めてもいいですか。
みなさんは学生Aと学生B、どちらの言い方がいいと思いますか?
例2 友だちの家で
友だちが私の家に来ました。友だちは私に言いました。
友だちA:寒いから、窓閉めていい?
友だちB:寒いので、窓閉めていい?
みなさんは友だちAと友だちB、どちらの言い方が好きですか?
「から」は主観、「ので」は客観
私は学生Bと友だちAが好きです。
なぜか?
「から」は主観的
「ので」は客観的
だからです。
「から」で言われると自分の気持ちを伝えている印象を受けます。
そのため、教室というフォーマルな場面では、
「から」を使って自分の気持ちばかり伝えらえると…
「自分勝手だなあ他の人もいるのに…」
と感じます。
一方
「ので」を使われると、教室が客観的に寒いという状況を伝えられたと感じるので、違和感なく受け止めることができました。
逆に、友人と家にいるという場面で「ので」を使われると、感情がなくてちょっと怖い印象。
「から」を使われると、「寒い」という感情が伝わってきます。
次の例も見てください。
A1:ディズニーランド、行かない?
B1:えー、今、ちょっと寒いから…。
A2:ディズニーランド、行かない?
B2:えー、今、ちょっと寒いので…。
どうでしょうか。
私にはB2の方が冷たく感じます。
あるいは距離を感じます。
本当の友だちではなく、大人の付き合いのような。
友だちとの会話では「から」を多用していると思います。
友だちには自分の気持ちを伝えたいですからね。
周りの友だち会話に耳をそばだててみてください。
選択肢4を「ので」にした理由
選択肢4の主節は「風邪を引いたかもしれません」と丁寧に話しています。
つまり、仕事場や学校などのフォーマルな場面で、あるいは距離がある人と話しています。
そのため、自分の気持ちを表す「から」よりも、客観的な判断を表す「ので」の方がよいと考えました。
従属節と主節とは?
本問の下線部は全て、従属節です。
従属節は下記の記事で解説しましたのでご覧ください。
「は」と「が」の使い分け
実は「は」という助詞はとても難しく、それを生涯の研究目的としていた先生もいらっしゃたりするので、深入りするとかなりの時間を費やしてしまいます。
趣味ならいいのですが、試験合格という観点からは危険な分野の1つです。
「は」と「が」の使い分けについては、庵先生の論文が詳しいのでよかったらどうぞ。