H29(2017年度)日本語教育能力検定試験 試験Ⅰの問題9【第二言語習得と母語の関係】の解説です。
問1の解き方【行動主義心理学に基づく言語習得観とは?】
行動主義心理学?
言語習得観?
一見、難しそうな言葉が並んでいますが
慌てずに。
知っていることから類推して答えをしぼっていきます。
行動主義の心理学?
行動を見れば心がわかるということでしょうか?
行動を見て研究した人
何か聞いたことがあります。
そうだ!
ベルが鳴ったらよだれが出る犬!
パブロフの犬!
梅干を見たらよだれがでる日本人!
条件反射!
刺激(梅干しすっぱい)と反応(よだれがでる)を繰り返せば
梅干を見ただけでよだれがでるという行動が形成されるというやつです!
よって、答えは2です。
スキャフォールディングとは?
選択肢3に「足場」とありますが、「足場」といえば、足場掛け(スキャフォールディング)ですね。
スキャフォールディングの例)
L「構造主義言語学って何ですか?」
T「じゃあ、まずは「構造」という言葉を辞書で調べてみようか」
スキャフォールディングについて詳しくは下の記事をどうぞ
情意フィルター仮説とは?
選択肢4に「緊張のない状態で…習得が進む」とありますが、これは情意フィルター仮説のことですね。
情意フィルター仮説とは、不安が大きいとフィルターの目が細かくなってインプットが入ってこない、不安が小さいとフィルターの目が大きくなってインプットがたくさん入ってくるという仮説
だから、第二言語の習得はリラックスした環境が大事です。
それで生まれたのがナチュラル・アプローチです。
ナチュラル・アプローチとは、話さなくてもいいんです、聞くだけでいいんです、リラックスしましょうというアプローチ。聴解優先。
行動主義心理学とは?
心理学とは心の動きを考える学問。気持ちのお勉強。
気持ちなんてあやふやなものをどうやって知る?
行動だよ。
行動を見ればわかるのだ!
行動を観察し
行動から分かることは何か考える。
それが行動主義心理学
行動主義心理学とは、行動を観察して、行動から心の動きを知ろうというする学問
人によって定義が違いますが、大きくとらえればこういうことです。
構造主義言語学とは?
構造主義言語学もよく出てきますが、ぼんやりとした言葉です。
意味がはっきり覚えられない理由は行動主義心理学と同じで、使っている人によって意味が違うからです。
なので、意味を大きくとらえましょう。
困ったときの大辞林さん
構造とは、全体を形づくっている種々の材料による各部分の組み合わせ。作りや仕組み。各要素の相互関係(大辞林より)。
つまり
構造主義言語学とは、各パーツの組み合わせから言語を考える学問です。
各パーツには、音韻論、形態論、統語論があります。
音韻論とは、音の仕組みを考えること
形態論とは、語(単語)の仕組みを考えること
統語論とは、文の仕組みを考えること
構造主義言語学の前までの言語学は、残された文献から研究していました。
ところが、ネイティブ・アメリカンの言語を研究しようとしたときに、つまづきました。
ネイティブ・アメリカンは文字を使わなかったので、文献から研究することができなかったのです。
そこで、ネイティブ・アメリカンの話し言葉から言語を研究しようということになりました。
話し言葉の音の仕組みを考えて(音韻論)、言語の仕組みを解き明かそうとしたのです。
それが
構造主義言語学です。
問2の解き方【母語と目標言語の差異】
説の名前を選ぶ問題
知識を問う問題です。
知っていないと難しい。
こういう問題は時間をかけても無駄なので、知らなかったら適当に推測して次に行きましょう。
推測のポイントは下線部Bの「母語と目標言語の差異」
「母語と目標言語の差異」に一番近い言葉を選択肢から探します。
2つの違いを比べるような言葉は…?
ありました!
選択肢4の「対照」
比較対照の「対照」!
対照とは、比べ合わせること(大辞林より)。
対照とは、別のものとの違いを比べること
よって、答えは4です。
根本的相違仮説とは?
根本的相違仮説とは、幼い子どもが母語を覚えるメカニズムと、大人が目標言語を習得するメカニズムは、根本的に相違しているよねという仮説です。
子どもの(母語)言語習得に個人差はあまりありませんが、大人の学習者には大きな個人差があります。
平成25年度日本語教育能力検定試験Ⅰ問題8問5の選択肢にも出てきました。
分離基底言語能力モデルとは?
下の記事をどうぞ。
創造的構築仮説とは?
創造的構築仮説とは、目標言語の習得するときに、母語はあまり影響しないという仮説。英語ではCreative Construction Hypothesis (CCH)
対照分析仮説とは?
対照分析仮説とは、母語と目標言語の比べて、違いが大きいところは難しいから気を付けようねという仮説。英語ではThe contrastive (analysis) hypothesis (CAH)
問3の解き方【誤りの種類】
それぞれの選択肢を見ていきます。
言語間の誤りとは?
言語間の誤りとは、言語の間の誤り
何と何のあいだ?
母語と目標言語のあいだ。
つまり
言語間の誤りとは、目標言語を母語のように考えてしまう誤り。母語干渉による誤り。言語間エラーとも。
例)
英語話者が「遊ぶ=play」と考えて
「ゲームを遊ぶ、サッカーを遊ぶ、ピアノを遊ぶ」と言う
言語内の誤りとは?
言語の内の誤り
目標言語内の誤り。母語は関係ない。
言語内の誤りとは、例えば、ある規則を他のものにまで適用してしまう誤り(過剰般化)。言語内エラーとも。
例)
ナ形容詞の過去形「でした」をイ形容詞にも適用し
「おいしいでした、やすいでした」と言う
全体的な誤りとは?
全体的な誤りとは、相手の理解に支障をきたすあやまり。グローバルエラーとも。
例)
「友達にもらいました」と言いたいのに「友達にあげました」と言う
局部的な誤りとは?
局部的な誤りとは、相手の理解に支障をきたさないあやまり。ローカルエラーとも。
例)
「昨日、ラーメンを食べました」を「昨日、ラーメンを食べます」と言う。
訓練の転移とは?
訓練の転移とは、教師の指導や教科書、教室内活動に起因する誤り。
例)
教科書の間違いをそのまま覚えてしまう。
以上より、答えは3です。
問4の解き方【誤用分析研究】
誤用分析研究という言葉を初めて聞いたとしても
間違いを分析して研究することか。
なんとなくわかりますね。
誤用分析研究とは、間違いを分析して学習に役立てる研究のこと
各選択肢を見て、変なこと言っている人を探します。
選択肢1
確かに、研究対象は、表に出てきた間違いだけです。例えば、学習者が間違いを恐れて使わなかった場合は、表に出てこないので研究できません。表に出てくる間違いは氷山の一角。全体像の把握は困難です。
選択肢2
一時的な誤りとは、単なる言い間違い。ほんとは知っていたけどつい間違えちゃった。ミステイクともいいます。
系統的な誤りとは、法則に従った誤り。つまり、学習者が覚えている法則自体が間違っていること。エラーとも。
系統とは、一定の順序・法則に従って統一されていること(大辞林より)。
確かに、間違いが一時的なものなのか、系統的な誤りかは、一回の誤りを見ただけでは判断できません。毎日24時間学習者と生活を共にすれば判断できるでしょうが。
選択肢3
選択肢1で検討したように、研究対象は表に出てきた誤りなので、学習者が意図的に使用を回避した場合、把握することができず、データに現れません。
選択肢4
誤用は1人の学習者からだけ集めるのではなく、いろいろな学習者からアルメルの出、データ数は限られません。
よって、答えは4です。
なお
縦断的観察とは、同一の対象者を一定期間継続して観察すること。
横断的観察とは、同じタイミングで多数の対象者を観察すること。
問5の解き方【自然習得順序仮説とは?】
自然習得順序仮説という言葉を初めて聞いたとしても何となく推測できるでしょうか。
自然習得順序仮説とは、言語は自然に習得する順序があるよという仮説
例えば、使役を習得してから使役受け身を習得する
使役:子供に勉強させる。
使役受身:勉強させられる
よって、答えは2です。
選択肢4
自然習得順序仮説とは、言語は自然に習得する順序があるよという説。教室で教えられた順序に覚えるという説ではありません。
赤ちゃんは簡単な言葉から覚える。
他の選択肢の重要キーワードも見てみましょう。
有標と無標の違いとは?
有標とは、標(しるし)が有ること。つまり特別。スペシャル
無標とは、標(しるし)が無いこと。つまり特別じゃない。ノーマル。変わらない。普通。
英語の過去形だと「-ed」をつけるものが無標、特別な形になるものが有標
無標:cook ⇒ cooked
有標:eat ⇒ ate
有標(特別ルール)の文法項目を学んだからといって、無標(一般ルール)の習得は進みませんので、選択肢1はおかしいです。
明示的知識と暗示的知識の違いとは?
明示的知識と暗示的知識については下記の記事をどうぞ。
明示的知識と暗示的知識は別々のものなので、同じ順序で習得がすすむわけではありません。選択肢3はおかしいです。
誤用でオススメの本
『日本語誤用辞典』は重くぶ厚いですが、それだけ誤用がつまっています。
新しい文法を導入するときに、どんな誤用が多いか調べることで教案を作る際に役立ちます。
あらかじめ誤用を知っておけば、学習者が実際に間違ったときもあわせずにすみますね。