令和3年度日本語教育能力検定試験Ⅰ問題10の正答率
問1の解き方【共同注意】正答率51.8%
見知らぬ言葉に惑わされた人が多いのか正答率が51.8%しかありませんので間違えても大丈夫。
ですが専門知識なしで読解力のみで解ける問題なのでこれを解いて他の学習者と差をつけておきたい。
見知らぬ言葉は漢字の意味から考えます。
共同とは、共に同じことをすること。
選択肢を見ると、共に同じことをしているのは選択肢4だけです。
選択肢4は、親と子どもが共に同じ方向に視線を向けています。
よって、答えは4
なお、共同注意とは、子どもがほかの人と同じように物体や人物に対して注意を向けていること。
詳しくは下記のウェブサイトをどうぞ
共同注意が登場した日本語教育能力検定試験の過去問
・平成28年度日本語教育能力検定試験Ⅲ問題11問2【母語習得】
問2の解き方【気づき仮説】正答率20.2%
正答率が20.2%しかありませんので、間違えても気にしないでください。
「気づき仮説」の気づきとは何か?
まず
スウェインのアウトプット仮説での気づきの対象は、自分が言いたいことと言えることとの違い(平成24年度日本語教育能力検定試験Ⅲ問題9問5)です。
選択肢4のように「学習者が必要性」を感じるのはアウトプットのときです。
言いたいことがあるのに言えない!
そこで学習者は必要性を感じるのです。
よって、答えは4
ではないのです。
これはスウェインのアウトプット仮説の答えです。
本問の気づきはスウェインのアウトプット仮説ではなく、シュミットの気づき仮説
シュミットの気づき仮説は、アウトプットではなくインプットにおける気づきです。
気づき仮説とは、インプット中の言語項目が習得に結びつくためには、インプットの内容を理解するだけではなく、その言語形式にも注意が払われる必要があるとするものです(JF 日本語教育通信 日本語・日本語教育を研究する 第46回「気づき仮説」より)。
よって、答えは1
アウトプット時の気づきとインプット時の気づきの違いがわかる文献
問3の解き方【維持リハーサルの例】正答率88.5%
正答率88.5%なので落としたくない問題です。
維持リハーサルと精緻化リハーサルの違いについては下記動画の9分25秒~参照
日本語教育能力検定試験完全攻略ガイド第5版だとp308
維持リハーサル:ワーキングメモリ上に維持。書いたり声に出したり心の中で繰り返す。長期記憶は期待できない。
精緻化リハーサル:イメージしたり、知っていることと関連づけて長期記憶に転送
選択肢1
対象の語を知っている母語の意味と対応づけるのは精緻化リハーサル
選択肢2
対象の語を何度も繰り返しつぶやくのは維持リハーサル
選択肢3
対象の語と共起する語を調べて使ってみるのが精緻化リハーサル
選択肢4
対象の語と類似の意味を持つ語を整理するのは精緻化リハーサル
よって、答えは2
類似の問題が令和元年度日本語教育能力検定試験Ⅰ問題10問3にありますので見ておいてください。
問4の解き方【ワーキングメモリ】正答率18.3%
正答率18.3%なので落としても大丈夫と言いたいところですが、過去問を理解していれば解けた問題です。過去問をしっかりやってこういう問題で差をつけたい。
ワーキングメモリとは、短期的な情報の保持と情報処理に用いられる記憶です(平成28年度日本語教育能力検定試験Ⅰ問題9問1選択肢4)。
この問題は平成30年度日本語教育能力検定試験Ⅰ問題10問3【外国語副作用】について理解していれば解けるかと思います。
選択肢1
ワーキングメモリの容量には限界があります。
例えばワーキングメモリの総量が10だとします。
語の記憶に9使うと、言語理解や産出の処理には1しか使えず、問題が生じることがあります。
選択肢2
不要な情報は抑制して、談話の重要な部分を保持するのは、ワーキングメモリの機能です。
ワーキングメモリは高齢になると衰えるとされています。
日本語教育能力検定試験でワーキングメモリを最も酷使するのが試験Ⅱの問題4と5です。
試験Ⅱの問題4,5は1回しか聞けないのに問いが2つあり選択肢が8つもあるので、
「談話の重要な部分を保持し、不要な情報を抑制する機能」が必要になります。
私の経験上でも、若い人は試験Ⅱの問題4、5が得意な人が多いですが、年配の人は試験Ⅱの問題4,5が苦手な人が多いです。
若い人は比較的テレビゲームが得意で年配の人は苦手な人が多いのもワーキングメモリの衰えによるものです。
選択肢3
日本人にとって、日本語より英語の方が語の意味を思い出すのに時間がかかり、記憶している時間も短いです
選択肢4
第二言語の使用経験が浅い場合、語を思い出すのにワーキングメモリを割くため、思考や推論には多くの処理資源を割り当てることができません。
英語があまり得意ではない日本人にとって
日本語と英語のどちらの方が思考しやすいか考えればわかると思います。
平成30年度日本語教育能力検定試験Ⅰ問題10問3【外国語副作用】でも「第二言語を用いながら課題を行う時、思考力が一時的に低下する」と言っています。
日本語があまり上達していない外国人が子どもっぽく見えるのは、思考や推論に多くの処理資源が割り当てられないからですね。
外国人学習者を子ども扱いしないように気を付けたい。英語で話すと立場が逆転するかもしれませんよ。
よって、答えは4
問5の解き方【チャンクの使用の効果】正答率18.8%
受験者が選んだ選択肢と解答速報
選択肢4を選んだ人が65.6%
選択肢2を選んだ人が18.8%
解答速報では
アルファ国際学院が4
解答速報も割れていますし、間違えても気にする必要ない問題です。
チャンクの意味
チャンキングとは、複数の語が一まとまりとして処理されること(平成26年度日本語教育能力検定試験Ⅲ問題10問3)。
チャンクとは、複数の語のまとまりのこと。
例えば、
①0354545215
②03-5454-5215
どちらが覚えやすいですか?
(日本国際教育支援協会 日本語試験センター 試験運営課 検定試験係の電話番号です)
①0354545215
を覚える時は、10の数字、10の要素を覚えなければなりません。
②03-5454-5215
を覚える時は、3つのかたまりになっているので、3つの要素を覚えればすみます。
このように、いくつかの情報要素をかたまりにして覚えやすくするのがチャンキングです。
チャンクは英語ではchunk
chunkとは、大きな塊、ぶ厚い断面(ウィズダム英和辞典より)
解き方
選択肢1
「別の語に置き換え」がチャンクではありません。
選択肢2
例えば、How are you? をバラバラにせずに、そのまま1つの要素として覚えるのがチャンクです。
How are you?
が1つにかたまっているので、
How…(次はなんだっけ…)are …(次はなんだっけ…)you?
と1語1語注意を払わなくても言語処理が進み、発話の流暢さが増します。
選択肢3
「聞き手の注意をつなぎとめる」のはチャンクと関係ありません。
選択肢4
チャンクはかたまりなので「次々と思い浮かぶ」というのが誤りです。
例えば、How are you?を一塊(ひとかたまり)で覚えた場合は、
How are you? だけであり、次々と他の語が思い浮かぶわけではありません。
よって、答えは2
チャンク(チャンキング)が登場した日本語教育能力検定試験の過去問
・平成26年度日本語教育能力検定試験Ⅲ問題10問3【チャンキングの説明】
チャンクが分かる文献
「チャンク」学習は,学習者に英語のチャンク(かたまり)を与え,複数のチャンクを組み合わせて文法的な文の理解と産出を促 す学習法である。
(中略)
近年の小学校英語教育、特定の英語表現を文法説明無しで「チ ャ ン ク」 (ex. “How are you?”, “I want to 〜”)として指導する傾向が高まっているが,英語教育研究において「チャンク」については明らかにされていないことが多い。
「チャンク」の習得における学習者のインプットの影響 より
語彙チャンクは、多くの場合、特定の語彙の組み合わせに関する知識であるコロケーションを内包しており、今回の語彙チャンクの記憶テストにおいては、事実上、コロケーション知識の定着を問うものとなっている。
・音読が語彙チャンクの記憶定着に及ぼす影響より
令和3年度日本語教育能力検定試験Ⅰ問題10問題11を動画で解説
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