内容言語統合型学習(CLIL)は、新しい語学学習法です。日本語教育の現場にも広まるでしょうか。
CLILの意味
内容言語統合型学習(CLIL)とは、内容(教科内容、理科や社会など)と言語(英語など)の統合型学習です。
CLILは、Content and Language Integrated Learning の略語です。
クリルと読みます。
CLILの特徴とは?
CLILの主な特徴は、学習内容(content)の理解に重きを置き、学習者の思考や学習スキル(cognition)に焦点を当て、学習者のコミュニケーション能力(communication)の育成や、学習者の文化(culture)あるいは相互文化(Interculture)の意識を高める点にあると言えるでしょう。
日本CLIL教育学会より
CLILでは、教科内容・言語(会話)・思考・協働学習を結びつけた授業が行われます。
4つのC
Content(内容)
Communication(言語知識・言語使用)
Cognition(思考)
CommunityないしCulture(協学・異文化理解)
CBIとは?
CBIとは、外国語で教科内容を学習すること。
Content-Based Instructionの略です。
CBI は教科内容を外国語で行うことを提唱した教育法であり(Snow, Met, & Genesee, 1989), 学習者は, 教科学習を通して外国語に触れ, 何が言われてい るのか, または書かれているのかに関心を持ち, そのメッセージの内容を理解しようと試み, それに対して自分の意見を述べる。 この過程を通して外国語を習得すると考えられている。
内容を重視した外国語教授法―CBI と CLIL―
CBI(Content-Based Instruction)とは、内容重視の言語教育法(内容依拠型指導)のことで、語学の授業で「言語そのものの習得」よりも、「興味・関心のある内容(トピック)」に焦点を当てて指導するアプローチです。主に第二言語(L2)習得や外国語教育で用いられます。
🔍CBIの基本的な考え方
CBIでは、「言語は目的ではなく手段」であり、学習者が関心を持つ内容を理解・表現する過程で言語力を高めていくという立場をとります。
たとえば:
- 理科や社会の授業を英語で行う(英語を通じて知識を得る)
- 日本語学習者に日本の文化や社会問題を日本語で学ばせる
🧠CBIの理論的背景
CBIは以下の理論と関係があります:
- クラッシェン(Krashen)のインプット仮説:「理解可能なインプット(i+1)」が言語習得を促す
- ヴィゴツキー(Vygotsky)の社会文化理論:学習は社会的相互作用の中で行われ、内容と言語は不可分
- CLIL(Content and Language Integrated Learning):CBIと似た欧州発の教育手法。特にヨーロッパではCBI=CLILと見なされることもあります。
🧱CBIのタイプ(Peacock 1997など)
- テーマベース型(Theme-based CBI)
- トピック中心の言語クラス(例:環境・旅行・食文化など)
- 言語スキルのバランスを取る
- 教科統合型(Sheltered CBI)
- 社会や理科などの教科内容を第二言語で教える(例:大学のESLサポート科目)
- 語学力がある程度ある学習者向け
- アジャンクト型(Adjunct CBI)
- 内容科目と語学科目を並行して履修
- 学生が専門内容を理解できるように、語学クラスで専門用語や表現を支援
✅CBIのメリット
- 言語を「生きた文脈」の中で学べる
- 学習意欲が高まる(内容への興味から)
- 語彙や表現がより自然な形で身につく
- 内容知識も深まるので、学際的に効果的
❗CBIの課題
- 学習者の言語力が不足していると理解が難しい
- 教師に「言語教育」と「内容教育」の両方の知識が必要
- 教材の開発・選定に工夫が必要
- 評価の方法が複雑(言語力と内容理解の両方をどう測るか)
📚日本語教育でのCBI活用例
- 中上級の日本語学習者向けに、「少子化」「労働問題」「漫画と社会」などの社会的テーマを扱う
- 地域連携授業で、地元の観光や伝統文化について調査・発表するプロジェクトを通して言語と内容を学ぶ
- 日本語教師がファシリテーターとなり、討論やプレゼンを通じて学習者主体で内容に取り組ませる
CLILとイマージョン教育とCBIの違いとは?
アメリカ発のCBI
ヨーロッパ発のCLIL
CLILもイマージョン教育もCBIも、目標言語を使って理科や算数などの教科学習を行う点は共通しています。
異なる点は以下の通りです。
CLILはイマージョンやCBI(Content-Based Instruction)など、以前から存在する教育法とどう違うのか。
「第一は目的の違いです。イマージョンは、ネイティブスピーカーの科目の先生が、英語で授業をする科目教育です。それに対して、CBIは語学教育です。これはネイティブの先生、非ネイティブの先生もいます。CLILはその中間で、科目教育と語学教育の両方の習得を目指します。ヨーロッパでは基本的にCLILの先生は非ネイティブの科目の先生です。第二に、方法論の違いです。CLILは、科目内容と語学力に加え、思考力と協同学習も意図的に考えられ、授業計画が作られ、教材も準備されます」
上智大学とCLIL CLIL導入へ の軌跡と実践より引用
イマージョン教育と米国のCBIは非常に似ています。一方で、ヨーロッパのCLILとはしばしば違いが指摘されています。米国のCBIはイマージョン教育同様、幼児期からスタートし、教科を外国語で学習するものです。授業を外国語で聞くだけではなく、意見を外国語で表現する、議論する授業を通じて、良質なインプットとアウトプットを担保するとしています。
一方ヨーロッパのCLILは中学校など、母国語が定着してから学習が始められます。CLILでは「translanguaging(トランスランゲージング)」と呼び、母国語と外国語を併用しながら授業を進めるのが主流。教科を学びながら外国語も学ぶ、というスタンスです。
Educediaより引用
内容言語統合型学習(CLIL)が出題された日本語教育能力検定試験の過去問
・令和5年度日本語教育能力検定試験Ⅰ問題6問1【内容重視の指導法】問3【CLILの4C】
・令和元年度日本語教育能力検定試験Ⅲ問題8【タイの高校で内容言語統合型学習(CLIL)を取り入れた授業を設計】
・平成28年度日本語教育能力検定試験Ⅰ問題4問5【内容言語統合型学習(CLIL)に関する記述】