コード・スイッチングの意味
コード・スイッチングとは、バイリンガル(二言語話者)が、文章や会話の中で、コード(言語)をスイッチ(切り替え)すること。
言語切り替えとも。
コード・スイッチングの3つの種類については、研究社 日本語教育事典の124Lに詳しい説明があります。
会話的コード・スイッチング
会話的コード・スイッチングとは、会話の流れを維持しながら行われるコード・スイッチング。別言語の情報を補足したり発話を引用したりするために用います。
英語では、conversational code-switching
会話のストラテジーの1つとして、新しい話題の導入、引用、対比、内容の繰り返しや明確化、などの機能を果たします。
会話的コード・スイッチングの例
・情報の補足や話題の導入などのために、もう一方の言語を差し込む。
・米国在住の日本人家族が、会話中に友達の言葉を英語に切り替えて引用する。
・日本語が話せないアメリカ人が、日本人とのミーティングの初めにあいさつを「こんにちは」と日本語で言い、その後は英語で話す。
状況的コード・スイッチング
状況的コード・スイッチングとは、状況に応じたコード・スイッチング。場面や相手に合わせるために言語を切り替えます。
英語では、situational code-switching
状況的コード・スイッチングの例
・公的で改まった場面では、社会的に権威のあるほうの言語を話す。
・日本在住の外国につながる子どもが、学校では日本語を、家庭では母語を用いる。
・日常生活で日本語を用いる者が、宗教上の儀式を行う際には英語を用いる。
・日英バイリンガルが、日本語が分からない相手には英語を用いて会話する。
・日本語で話しているところに、アメリカ人の友人が来たので英語に切り替える。
隠喩的コード・スイッチング
隠喩的コード・スイッチングとは、話題に応じて、親密さや共通の価値観などの心理的意味を隠喩的に伝えるコード・スイッチング。
英語では、metaphorical code-switching
隠喩(いんゆ)とは、別のもので表すこと。メタファーとも。
例えば「トイレに行きます」というかわりに「お花摘みに行ってきます」というのが隠喩。
コード・スイッチングを隠喩のために使う。
例えば日本語で話していたのに隠喩のために英語を使うのが隠喩的コード・スイッチングです。
日本語のままでいいのにどうしてコード(言語)をスイッチ (切り替え) するの?
特別なニュアンスを付与するためです。
同じものを別の言葉で言い換えると特別のニュアンスが付与されます。
例えば、私が若かりし頃「援助交際」と呼んでいたものが、現在は「パパ活」と呼ばれています。スパゲッティはパスタに。洋菓子はスイーツに。アベックはカップルに。運動選手はアスリートに。
おもしろいですね。
隠喩的コード・スイッチングの例
・集団内で連帯感を強めるため、聞き手と同じ言語を話す。
・アメリカ駐在の日本人家族の子供同士が親に内緒の話題を話す際に英語の若者言葉に切り替えることで、兄弟間の親密度を高めると同時に親を疎外する機能も果たす。
スピーチレベルの意味
スピーチレベルとは、話し方の丁寧さのレベルのこと。
スピーチレベルシフト、スピーチスタイル、スピーチスタイルシフト、スタイルシフトなど様々な言い方があります。
スピーチレベルが切り替わるとは、普通体から丁寧体になったり、丁寧体から普通体になったりすること。
日本語教育能力検定試験完全攻略ガイド第5版(通称、赤本)では、p411に「スタイルシフト」が出てきますが、最近の日本語教育能力検定試験では「スピーチレベル」「スピーチレベルシフト」などの用語を使っていますので、赤本にメモしておきましょう。
スピーチレベルの様々な言い方については
宮武かおり『日本語会話のスピーチレベルを扱う研究の概観』が詳しいです。
スピーチレベルシフトの例
(学校で)
A「ねえ、君、何組?」普通体
B「いや、私は学生じゃなくて、先生です」
A「あ、そうですか。失礼しました」丁寧体
Aの発話が普通体から丁寧体にシフトしています。
コード・スイッチングとスピーチレベルシフトの違いとは?
コード・スイッチングは言語の切り替えです。
コード・スイッチングでは言語が変わります。
例)
日本語→英語
標準語→大阪弁(方言は別の言語と考えた場合)
…
スピーチレベルシフトは丁寧さの切り替えです。
スピーチレベルシフトでは言語は変わりません。
例)
丁寧体→普通体
「年はおいくつですか? え、20歳? 俺も同じ! よろしく!」
「言語はコード、丁寧さはレベル」で覚えてください。
コード・スイッチングやスピーチレベルが出題された日本語教育能力検定試験の過去問
・令和5年度日本語教育能力検定試験Ⅰ問題12問5【スピーチレベルが切り替わる例】
・令和2年度日本語教育能力検定試験Ⅲ問題13問3【会話的コード・スイッチングの例】
・平成29年度日本語教育能力検定試験Ⅲ問題13問3【スピーチレベルが切り替わる例】
・平成28年度日本語教育能力検定試験Ⅲ問題12【会話的コード・スイッチング、状況的コード・スイッチング、隠喩的コード・スイッチングの違い】
・平成27年度日本語教育能力検定試験Ⅰ問題3D(18)【丁寧体と普通体が交替する現象を何というか?】スピーチレベルシフト
・平成26年度日本語教育能力検定試験Ⅰ問題12問4選択肢4【コード・スイッチング】
・平成24年度日本語教育能力検定試験Ⅱ問題4 3番問2【スピーチスタイルの変化が見られる】
・平成23年度日本語教育能力検定試験Ⅰ問題7問6【コード・スイッチングとスタイルシフト】
・平成23年度日本語教育能力検定試験Ⅲ問題3問2選択肢2【コード・スイッチング】