方言の種類
方言とは、話し手の属性による言語変種。地域方言と社会方言があるが、一般的には地域方言を指す(研究社日本語教育事典130頁L)。
地域方言とは、地域差に基づく言語変種(研究社日本語教育事典130頁R)。
社会方言とは?
社会方言とは、年齢、性差(gender)、職業、階級など社会的な属性に基づく言語変種(研究社日本語教育事典130頁R)。
社会方言とは、話者の属性のうち、年齢や性差などの観点から言葉の差異を捉えたもの(平成28年度日本語教育能力検定試験Ⅰ問題11問1)
社会方言の一覧と具体例
・集団語
・役割語
・若者言葉
・てよだわ言葉
・女房詞
・幼児語
集団語の意味
集団語とは、ある集団の特徴的な言葉。専門用語や隠語(研究社日本語教育事典130頁R)
集団語の特徴
・専門語を除けば、その多くは俗語に属する。
・言葉の伝達以外に、娯楽機能・連体機能が強く見られる。
・部外者、よそ者には分からない語が多い。
(以上は平成25年度日本語教育能力検定試験Ⅰ問題11問6より)
集団語の具体例
・スラング(俗語)
・職業語
・術語(学術用語)
・隠語
(以上は平成28年度日本語教育能力検定試験Ⅰ問題11問3)
職業による集団語の例
・「言い間違える」を意味する「噛む」(令和元年度日本語教育能力検定試験Ⅰ問題11問1)
・警察用語で犯人のことをホシと言う(「隠語」平成28年度日本語教育能力検定試験Ⅰ問題11問4)。
役割語とは?
役割語とは、「そうじゃ、ワシは天才なんじゃ(老博士言葉)」「よろしくってよ(お嬢様言葉)」「違うアル(中国人言葉)」など、特定の人物像に結びつく話し方。実在の博士、お嬢様、中国人がそのような喋り方をしているとは限らない。
役割語は特定の人物像を想起させる言葉。
ステレオタイプの一種。
・役割語は現実の位相や位相差を忠実に再現しているわけではない(令和元年度日本語教育能力検定試験Ⅰ問題11問5)。
役割語の具体例
・知的階級の男性を想起させる「わがはい」(平成28年度日本語教育能力検定試験Ⅰ問題11問5)
若者言葉とは【若者言葉の一覧と具体例】
若者言葉とは、話者の年齢を反映した言葉の一つで若者が話す言葉
・若者言葉には、学生が用いるキャンパス言葉や、若い社会人の言葉が含まれる。
・SNS上で使用される言葉は、若者の口頭表現に取り入れられることがある。
・「アルバイト」のように、戦前の学生の言葉が一般語になったものがある。
(以上は令和元年度日本語教育能力検定試験Ⅰ問題11問2より)
下の動画の07:44~に「ぴえん」と「ぱおん」に関する考察があります。
若者言葉を使用する目的
・人に聞かれて都合が悪いことを隠すため
・マイナス評価の語の印象を冗談めかして和らげるため
例)激おこぷんぷん丸(激怒している状態を意味する俗語)
・会話に笑いを生じさせて楽しむため
(以上は平成28年度日本語教育能力検定試験Ⅰ問題11問2)
てよだわ言葉とは?
てよだわ言葉とは、「よろしくてよ」「すてきだわ」など明治の女学生に流行った言葉。現代ではアニメ等でお嬢様を表現する役割語として活躍している。
「てよ」の特徴
・「てよ」は時制の区別なく用いられる。
例)
過去:「昨日のテストはどうでしたか」「よろしくてよ(よかったですよ)」
現在:「じゃあ、今からテストしてもいいですか」「よろしくてよ(いいですよ)」
女房詞とは?
女房詞とは、室町時代初期頃から宮中(天皇の住む場所。読み方は「きゅうちゅう」)に使える女房が使い始めた言葉。語頭に「お」がつけて丁寧にしたり、語尾に「もじ」をつけて婉曲的に表現することが特徴。宮中言葉とも。
女房詞の読み方は「にょうぼうことば」
女房詞(宮中言葉)の一覧
・おひや
・おでん
・しゃもじ
(以上は平成29年度日本語教育能力検定試験Ⅰ問題12問3)
感動詞や終助詞にジェンダーが現れる例
・おい、先に行くぞ(平成29年度日本語教育能力検定試験Ⅰ問題12問2)
「ぞ」は男性が使うと言われている終助詞です。
言葉の男女差が年齢層によって違う例
・「降るわよ」のような言い方を、20代女性は50代女性ほど使用しない
(令和元年度日本語教育能力検定試験Ⅰ問題11問4より)
地域方言や社会階層に由来する言葉の例
・「もう少しの辛抱じゃ」の「じゃ」は、近世の上方方言や上方方言の流れをくむ武家言葉に由来する(平成29年度日本語教育能力検定試験Ⅰ問題12問5)。
位相の意味
位相とは、性別や年齢等の属性の違い、職業、地域等の所属の違い、話し言葉と書き言葉等の使用条件の違い、対話している状況や相手等の使用環境の違い等、様々な要因によって用いる言葉が異なること。位相の違いによって変わる語を位相語という(研究社日本語教育事典210頁R)。
性別の違いによる位相語の例…男:「おれ」「めし」、女:「わたし」「ごはん」
職業の違いによる位相語の例(集団語)…医者:「オペ」、警察「ホシ」
年齢の違いによる位相差の例(社会方言)…若者言葉:「マジきもい」
地域の違いによる位相語(地域方言)
ということは、位相語は、方言を含めたより広い言葉の違いを意味する語といえそうですが、位相語に地域方言を含めない学者もいるようです。
位相語と方言の違い
『田中(1999:9-10)は、位相を社会的位相(性別、世代、身分、職業、社会集団等によるもの)、様式的位相(文体、伝達様式、話し言葉と書き言葉、場面や相手等の差異によるもの)、心理的位相(忌避、美化、仲間意識、対人意識等の心理によるもの)の3つの観点から捉え、これらが重層的に作用して位相差がもたらされると述べている。但し、田中は方言のような地域差や、明治時代語のような時代差は位相に含めていない』(研究社日本語教育事典210頁R、211頁Lより)
つまり、社会方言は位相語に含まれるが、地域方言は位相語に含める人と、位相語に含めない人がいる、ということのようです。
社会方言と地域方言と位相語が出題された日本語教育能力検定試験の過去問
・令和5年度日本語教育能力検定試験Ⅰ問題11問1【術語】問2【集団語】問3【職業語に由来する 語の例】問4【隠語の例】問5【集団内でのアクセントの変化】
・令和元年度日本語教育能力検定試験Ⅰ問題11問1【職業による集団語の例】問2【若者言葉に関する記述として不適当なもの】問3【ネオ方言の説明】問4【言葉の男女差が年齢層によって違う例】問5【役割語】
・平成30年度日本語教育能力検定試験Ⅲ問題12【地域による言葉のバリエーション】
・平成29年度日本語教育能力検定試験Ⅰ問題12問2【感動詞や終助詞にジェンダーが現れる例】問3【社会階層や職業】問4【でよだわ言葉】問5【地域方言や社会階層に由来する言葉】
・平成28年度日本語教育能力検定試験Ⅰ問題11問1【社会方言】問2【若者言葉を使用する目的として不適当なもの】問3【集団語に含まれないもの】問4【隠語】問5【特定の人物像を想起させる言葉】